エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫、以下 エーザイ)とバイオジェン・インク(Nasdaq:BIIB、本社:米国マサチューセッツ州ケンブリッジ、CEO:クリストファー A. ヴィーバッハー、以下 バイオジェン)は、このたび、オーストラリア医療製品管理局(TGA:Therapeutic Goods Administration)がヒト化抗ヒト可溶性アミロイドβ(Aβ)凝集体モノクローナル抗体レカネマブ(一般名)について早期アルツハイマー病(アルツハイマー病(AD)による軽度認知障害および軽度認知症)治療薬として承認しないとした初期の審査結果を確認したことをお知らせします。
2024年10月、TGAはレカネマブを早期ADに対する治療薬として承認しないとする初期の審査結果を公表し、エーザイは同年12月に英国医薬品医療製品規制庁(MHRA)と欧州医薬品庁(EMA)により合意されたものと同じアポリポタンパク質E4(ApoE4)非保有者およびヘテロ接合体保有者を対象とした適応症をTGAに提案し、再審議の申請を行いました。再審議の過程で、TGAは、ApoE4対立遺伝子の増加はARIAの潜在的な危険因子であり、ApoE4ヘテロ接合体保有者に対する安全性は十分に確立されていることには同意できないとの理由で、ApoE4非保有者のみに限定した適応症を提案しました。これに対して、エーザイは、代替の適応案を提案し、その一つとしては、ApoE4非保有者に加え、専門施設においてADの治療とARIAのモニタリングに関する専門知識を有する医師の監督下で治療を受けることを条件に、ApoE4ヘテロ接合体保有者についても適応症に含めるべきであると提案しましたが、TGAは本提案を却下しました。
エーザイのチーフクリニカルオフィサーであるLynn Kramer, M.D.は、「TGAの今回の決定に大変驚き、失望しています。レカネマブが世界の11の国と地域で承認されていることに鑑み、オーストラリアのアルツハイマー病コミュニティにはとても落胆を持って受け止められています。我々は、申請データを適切に反映する適応症についてTGAと妥協点を見出そうとに努力しましたが、残念ながら合意には至りませんでした。TGAが提案したApoE4非保有者のみに限定する適応症では、潜在的な対象当事者様の約3分の2(~70%)の方々が、疾患の進行を遅らせる可能性のある治療薬へのアクセスを否定されることとなります。我々は、ApoE4ヘテロ接合体保有者とApoE4非保有者集団とのベネフィット/リスクプロファイルの類似性を考慮すると、少なくともApoE4ヘテロ接合体保有者はレカネマブ治療にアクセスできるべきであると考えています。TGAが提案する適応症は、患者中心の考えに反するものであり、我々はこれを受け入れることはできませんでした。今回の結果により、オーストラリアのAD当事者様が、疾患の根本原因を標的とし、早期ADの進行を遅らせる治療オプションに公平にアクセスできなくなることを、我々は深く憂慮しています。エーザイは、オーストラリアにおられる適格な早期AD当事者様がレカネマブにアクセスできるよう、行政審査裁判所による審査を求める可能性も含めたあらゆる対応を検討しています」と述べています。
オーストラリアにおいては、2023年に認知症当事者数は約41.1万人と推定され、2058年には、約84.9万人に増加すると報告されています1。ADは認知症の最も一般的な原因とされ、通常、認知症全体の60~70%を占めるとされています2。ADは、時間の経過とともに段階的に病期が進行し重症度が増していく疾患であり、病期の進行に伴いAD当事者様や介護者の方々に大きな障害や負担をもたらすだけでなく、社会全体に対しても甚大な影響を及ぼします。より早期の段階からADの進行を遅らせる新しい治療オプションに対する大きなアンメット・ニーズが存在します。
ADの発症に関係しているAβは症状が出る15年から20年前から徐々に脳内に凝集し、ADの病理像である不溶性のプラークとして蓄積します。ADは、プラーク沈着前に始まり、プラーク沈着後も継続する進行性の神経毒性プロセスを有する疾患です3,4,5。レカネマブは、最も毒性が高いAβ種であるプロトフィブリル*の除去とプラークの迅速な除去という二つの作用を有する唯一のAD治療剤であり、これらの作用により、ADの進行を抑制し、認知機能と日常生活機能の低下を遅らせることを実証し、米国、日本、中国、韓国、香港、イスラエル、アラブ首長国連邦、英国、メキシコ、マカオ、オマーンで承認を取得しています。欧州(EU)をはじめ、17の国と地域で承認申請を行っています。EUでは、2025年2月、欧州医薬品委員会が2024年11月に採択した本剤に対する承認勧告を維持すると結論付け、欧州医薬品委員会はレカネマブの販売承認に関する意思決定プロセスを進めています。
レカネマブについて、エーザイは、開発および薬事申請をグローバルに主導し、エーザイの最終意思決定権のもとで、エーザイとバイオジェンが共同商業化・共同販促を行います。
*プロトフィブリルは、ADによる脳損傷に寄与し、この進行性の深刻な疾患の認知機能低下に主な役割を果たす、最も毒性が高いAβ種であると考えられています。プロトフィブリルは脳内の神経細胞の損傷を引き起こし、その結果、複数のメカニズムを介して認知機能に悪影響を及ぼす可能性があります6。そのメカニズムとして、不溶性Aβプラークの発生を増加させるだけでなく、神経細胞やその他の細胞間のシグナル伝達に直接的な損傷を起こすことも報告されています。プロトフィブリルを減らすことで、神経細胞への損傷や認知機能障害を軽減させ、ADの進行を防ぐ可能性があると考えられています7。
以上
参考資料
1. レカネマブについて
レカネマブ(一般名:レカネマブ)は、BioArctic AB(本社:スウェーデン、以下 バイオアークティック)とエーザイの共同研究から得られた、アミロイドベータ(Aβ)の可溶性(プロトフィブリル)および不溶性凝集体に対するヒト化IgG1モノクローナル抗体です。
レカネマブは、米国、日本、中国、韓国、香港、イスラエル、アラブ首長国連邦、英国、メキシコ、マカオ、オマーンで承認を取得しています。欧州(EU)をはじめ、17の国と地域で承認申請を行っています。EUでは、2025年2月、欧州医薬品委員会が2024年11月に採択した本剤に対する承認勧告を維持すると結論付け、欧州医薬品委員会はレカネマブの販売承認に関する意思決定プロセスを進めています。2025年1月、米国において、静注(IV)維持投与に関する生物製剤一部変更申請(sBLA)が承認され、レカネマブは18カ月間の隔週投与による初期治療後、10mg/kgの4週に1回の維持投与レジメンへの移行を検討するか、もしくは10mg/kgの隔週投与レジメンを継続することができるようになりました。皮下注射製剤維持投与について、2025年1月に生物学的製剤追加ライセンス(BLA)が米国食品医薬品(FDA)に受理され、PDUFAアクションデートは2025年8月31日に設定されました。
2020年7月から、臨床症状は正常で、ADのより早期ステージにあたる脳内Aβ蓄積が境界域レベルおよび陽性レベルのプレクリニカルADを対象とした臨床第Ⅲ相試験(AHEAD 3-45試験)を米国のADおよび関連する認知症の学術的臨床試験のための基盤を提供するAlzheimer's Clinical Trials Consortium(ACTC)とのパブリック・プライベート・パートナーシップ(PPP)で行っています。ACTCは、National Institutes of Health傘下のNational Institute on Agingによる資金提供を受けています。また、2022年1月から、セントルイス・ワシントン大学医学部(米国ミズーリ州セントルイス)が主導する優性遺伝アルツハイマーネットワーク試験ユニット(Dominantly Inherited Alzheimer Network Trials Unit、以下 DIAN-TU)が実施する優性遺伝アルツハイマー病(DIAD)に対する臨床試験(Tau NexGen試験)が進行中です。本試験において、レカネマブは抗Aβ療法による基礎療法として選定されました。
2. エーザイとバイオジェンによるAD領域の提携について
エーザイとバイオジェンは、AD治療剤の共同開発・共同販売に関する提携を2014年から行っています。レカネマブについて、エーザイは、開発および薬事申請をグローバルに主導し、エーザイの最終意思決定権のもとで、エーザイとバイオジェンが共同商業化・共同販促を行います。
3. エーザイとバイオアークティックによるAD領域の提携について
2005年以来、エーザイとバイオアークティックはAD治療剤の開発と商業化に関して長期的な協力関係を築いてきました。エーザイは、レカネマブについて、2007年12月にバイオアークティックとのライセンス契約により、全世界におけるADを対象とした研究・開発・製造・販売に関する権利を取得しています。2015年5月にレカネマブのバックアップ抗体の開発・商業化契約を締結しました。
4. エーザイ株式会社について
エーザイ株式会社は、患者様と生活者の皆様の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献する「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」を企業理念とし、この理念のもと、人々の「健康憂慮の解消」や「医療較差の是正」という社会善を効率的に実現することをめざしています。グローバルな研究開発・生産・販売拠点ネットワークを持ち、戦略的重要領域と位置づける「神経領域」「がん領域」を中心とするアンメット・メディカル・ニーズの高い疾患をターゲットに革新的な新薬の創出と提供に取り組んでいます。
また、当社は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)のターゲット(3.3)である「顧みられない熱帯病(NTDs)」の制圧に向けた活動に世界のパートナーと連携して積極的に取り組んでいます。
エーザイ株式会社の詳細情報は、https://www.eisai.co.jpをご覧ください。SNSアカウントX、LinkedIn、Facebookでも情報公開しています。
5. バイオジェン・インクについて
1978年の創立以来、バイオジェンは世界をリードするバイオテクノロジー企業で、患者さんの人生を変革し、株主や私たちのコミュニティに価値をもたらす新薬をお届けするために革新的なサイエンスを開拓しています。私たちは優れた治療アウトカムをもたらすファースト・イン・クラスの治療薬や治療法を推進するために、人類の生物学に対する深い理解を応用し、異なるモダリティを活用します。私たちは長期的な成長をもたらすために投資利益率のバランスを考慮した上で、果敢にリスクを取るというアプローチを採択しています。
バイオジェンに関する情報については、https://www.biogen.com/ およびSNS媒体X、LinkedIn、Facebook、YouTubeをご覧ください。