エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫、以下 エーザイ)とバイオジェン・インク (Nasdaq: BIIB、本社:米国マサチューセッツ州ケンブリッジ、CEO:Christopher A. Viehbacher、以下 バイオジェン)は、本日、米国マサチューセッツ州ボストンおよびバーチャルで10月24日から27日まで開催中の第16回アルツハイマー病臨床試験会議(Clinical Trials on Alzheimer’s Disease Conference:CTAD)のLate Breaking Symposium 4「早期アルツハイマー病(AD)に対するレカネマブ:長期投与成績、予測バイオマーカー、新規皮下投与」において、AD治療剤「レケンビ®」(一般名:レカネマブ)の最新データを発表したことをお知らせします。
1. 「レケンビ」皮下注(SC)製剤の中間解析データ:安全性と脳内アミロイドへの効果
- 1) SC週一回投与は、静脈内(IV)隔週投与より14%多く脳内アミロイドプラークを除去することが、投与6カ月後のアミロイドPETを用いた予備的解析で示唆されました。
- Clarity AD試験*の非盲検長期継続投与試験(open-label extension: OLE)においてSC製剤の評価を行っているSCサブスタディには、OLEでSC製剤により初めて「レケンビ」を投与された72人の被験者と、Clarity ADのコア試験で「レケンビ」のIV投与を受けた後、本サブスタディでSC投与を受けた322人の被験者が参加しました。投与6カ月後のアミロイドPETによる脳内アミロイドのベースラインからの減少は、OLEで新たに本剤を投与されたSC投与群で-40.3±2.27、IV投与群では-35.4±1.14でした(センチロイド法)1。
- 2) SC投与時の薬物動態(AUC)はIV投与より11%高いことが示されました1。
- SC週一回投与は、IV隔週投与より11%高いAUCを示しました。SC投与のIV投与に対する薬物暴露の90%信頼区間は、生物学的同等性の許容域である80~125%の範囲内でした。これらのデータは、SCの用量についてIVと同等のAUCを達成しうる用量の選択が可能であることを示唆しています1。
- 3) IV投与と比べてSC投与における全身性のInjection Reactionは低いことが示されました。
- SC投与における全身性のInjection Reactionの発生頻度は低く、その症状は軽度でした。特にOLEでSC製剤により初めて「レケンビ」の投与を受けた被験者では全身性のInjection Reactionは見られませんでした。局所注射部位反応の発現率はSC投与全体では8.1%で、発赤、刺激感、腫脹が生じましたが、ほとんど軽度および中等度でした。皮疹などの過敏反応は報告されていません1。
- 4) SCサブスタディで初めて「レケンビ」投与を受けた被験者のARIAの発現率は、Clarity ADコア試験におけるIV投与と同等でした。
- SC投与のARIAの発現率はIV投与と同程度であると考えています。Clarity ADコア試験におけるIV投与(n=898)によるARIA-E、ARIA-H(ARIAによる脳微小出血、脳出血、脳表ヘモジデリン沈着)、ARIA-H単独(ARIA-Eを伴わないARIA-H)の発現率はそれぞれ12.6%、17.3%、8.9%であったのに対し、Clarity AD試験OLEのSCサブスタディで初めて「レケンビ」投与を受けた被験者(n=72)ではそれぞれ16.7%、22.2%、8.3%でした。SCサブスタディで初めて「レケンビ」投与を受けた被験者数を考慮すると、直接的な比較には限界があります1。
- 臨床第Ⅱ相、第Ⅲ相試験の結果から、IV投与においてはCmax(最大暴露量)がARIA-E発現の最も予測性の高い因子でした。SC投与は比較的安定した血中濃度推移を示すことから、SC投与においては定常状態における暴露量(AUCss)がARIA-E発現の予測性の高い因子であると考えられます1。
エーザイは、「レケンビ」皮下注製剤の生物製剤ライセンス申請(BLA)を、2023年度中に米国食品医薬品局(FDA)に提出する予定です。
2. タウPETサブスタディの最新データ:Clarity AD 18カ月コア試験におけるLow Tau集団とIntermediateならびにHigh Tau集団の事後解析を含む
- 1) 早期ADの初期段階と考えられるLow Tau集団において、投与18カ月時点で76%の被験者に臨床症状の悪化がみられず、60%の被験者で臨床症状の改善が認められました。
- Clarity AD試験では、任意のタウPETサブスタディを行いました。タウPETプローブMK6240を用いて、早期ADの初期段階と考えられる脳内タウ蓄積量の少ない被験者(Low Tau 集団)**を同定しました。
- 早期ADの初期段階と考えられるLow Tau集団は緩徐な疾患進行を示すと考えられています。投与18カ月時点で主要評価項目であるCDR-SB(Clinical Dementia Rating- Sum of Boxes)について、Low Tau集団では「レケンビ」投与群では76%で悪化が認められず、60%で改善が示されたのに対し、プラセボ群ではそれぞれ55%、28%となりました1。
- さらに、Low Tau集団において「レケンビ」は複数の評価指標で一貫した臨床症状の悪化抑制を示しました***。これにより、早期ADの初期段階での「レケンビ」による治療は、認知機能・日常生活機能に好ましい作用を示しました1。
- タウPETにより脳内のタウ蓄積を観察したClarity AD試験のタウPETサブスタディにおける「レケンビ」の有効性の結果は、Clarity AD試験全体の結果と一致していました1。
- 2) タウPETサブスタディにおいて、「レケンビ」は早期ADのタウの蓄積の進展を遅らせることが示されました。タウの脳内拡散は疾患進行の特徴です。
- Clarity AD試験のタウPETサブスタディでは、「レケンビ」投与により、早期ADの初期段階でタウの蓄積が観察される側頭葉(初期Braak領域)においてタウタンパク質の蓄積が抑制されました。「レケンビ」投与は、Low Tau集団において内側側頭葉におけるタウの蓄積を抑制し、Intermediate+High Tau集団**ではより広範な脳部位でのタウ蓄積の抑制が観察されました。「レケンビ」投与によるタウを指標とした脳の各領域への影響は病期により異なっていました1。タウの脳内拡散は疾患進行の特徴です2。
3. Clarity AD試験OLEにおける「レケンビ」の有効性結果
- 1) 「レケンビ」投与は、24カ月時点でもベネフィットをもたらします。
- Clarity AD試験の18カ月間のコア試験では、「レケンビ」投与群とプラセボ投与群の間で、CDR-SBを指標とした認知機能および日常生活機能の悪化を統計的に有意に抑制することが観察されました。コア試験後に続く、OLEの6カ月の時点において、「レケンビ」の投与を継続した群(早期開始群)とプラセボから「レケンビ」に切り替えた群(遅延開始群)の間のCDR-SBの差はOLEの間も維持され、「レケンビ」の投与により、早期開始群と遅延開始群で同様の疾患進行抑制を示しました1。
- 血液バイオマーカー(血漿中のAβ42/40比、ptau181、GFAP、NfL)の結果は遅延開始群においても改善の方向を示しました。これらの結果は、「レケンビ」投与は、ADの病理の改善によって臨床症状の進行抑制をもたらす可能性を示しています1。
4. 早期ADにおける「レケンビ」の作用メカニズムに基づく治療根拠
- 1) デュアル アクションを有する「レケンビ」は、プラーク除去後も神経細胞の損傷や神経細胞死を引き起こす可能性のある毒性の高いタンパク質(プロトフィブリル****)を除去し、脳神経細胞の機能を持続的にサポートし、当事者様に継続してベネフィットを提供します。
- 「レケンビ」は、プラークの速やかな除去作用に加えて毒性の高いタンパク質(プロトフィブリル)2,4にも選択的に結合するユニークなデュアル アクションを有しており1,3、プラーク除去後も神経細胞傷害や神経細胞死を引き続き起こす可能性のあるプロトフィブリルを取り除き神経細胞の機能を持続的にサポートします3-8。
本シンポジウムの発表は、エーザイのコーポレートウェブサイトの投資家セクションにてオンデマンドでも配信予定です(英語のみ)。
「レケンビ」について、エーザイは、開発および薬事申請をグローバルに主導し、エーザイの最終意思決定権のもとで、エーザイとバイオジェンが共同商業化・共同販促を行います。
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臨床第Ⅲ相Clarity AD試験は、早期AD当事者様1,795人を対象に、「レケンビ」10mg/kgまたはプラセボをbi-weeklyで18カ月投与する二重盲検並行群間比較試験(コア試験)です。コア試験後に非盲検長期継続投与試験(OLE)を実施しています。Clarity AD試験OLEにおいて皮下投与の評価が進行中です。 |
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タウPETプローブMK6240を用い、脳内タウの蓄積量が軽度の蓄積量を示す集団(Low Tau 集団:MK6240によるカットオフ値が1.06未満、141名)、中程度の集団(Intermediate Tau集団:MK6240によるカットオフ値が1.06から2.91、191名)、高度の集団蓄積量(High Tau集団:MK6240によるカットオフ値が2.91超、10名)を定義しました。 |
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複数の評価指標:認知症の幅広いステージの重症度を評価するスケールであるCDR-SB、主に記憶を評価するスケールであるADAS-Cog14、当事者様の日常生活動作を評価するスケールであるADCS MCI-ADLを用いて評価しました。 |
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プロトフィブリル:
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以上
参考資料
1. レカネマブについて
レカネマブは、BioArctic AB(本社:スウェーデン、以下 バイオアークティック)とエーザイの共同研究から得られた、アミロイドベータ(Aβ)の可溶性(プロトフィブリル)および不溶性凝集体に対するヒト化IgG1モノクローナル抗体です。米国において、「LEQEMBI」(米国ブランド名)は、2023年7月6日に米国食品医薬品局(FDA)よりフル承認を取得しました。米国における「LEQEMBI」の適応症はアルツハイマー病(AD)の治療です。「LEQEMBI」による治療は、臨床試験と同様、ADによる軽度認知障害または軽度認知症の当事者様において開始する必要があります。日本においては、「レケンビ」として2023年9月25日に厚生労働省より「アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制」の効能・効果で製造販売承認を取得しました。
米国におけるフル承認に基づく処方情報、Boxed Warningはこちらから入手できます。
レカネマブについては、欧州(EU)、中国、カナダ、英国(北アイルランドを除く)、オーストラリア、スイス、韓国、イスラエルにおいても、それぞれ承認申請を行っています。中国およびイスラエルにおいては優先審査に、英国(北アイルランドを除く)においては、革新的な医薬品について上市までの時間を短縮することを目的としたILAP(Innovative Licensing and Access Pathway)に指定されています。
レカネマブの皮下注射によるバイオアベイラビリティ試験は終了し、Clarity AD試験OLEにおいて皮下投与の評価が進行中です。維持投与レジメンは201試験OLEにおいて評価を行っています。
2020年7月から、臨床症状は正常で、ADのより早期ステージにあたる脳内Aβ蓄積が境界域レベルおよび陽性レベルのプレクリニカルADを対象とした臨床第Ⅲ相試験(AHEAD 3-45試験)を米国のADおよび関連する認知症の学術的臨床試験のための基盤を提供するAlzheimer's Clinical Trials Consortium(ACTC)とのパブリック・プライベート・パートナーシップ(PPP)で行っています。ACTCは、National Institutes of Health傘下のNational Institute on Agingによる資金提供を受けています。また、2022年1月から、セントルイス・ワシントン大学医学部(米国ミズーリ州セントルイス)が主導する優性遺伝アルツハイマーネットワーク試験ユニット(Dominantly Inherited Alzheimer Network Trials Unit、以下 DIAN-TU)が実施する優性遺伝アルツハイマー病(DIAD)に対する臨床試験(Tau NexGen試験)が進行中です。本試験において、レカネマブは抗Aβ療法による基礎療法として選定されました。
2. エーザイとバイオジェンによるAD領域の提携について
エーザイとバイオジェンは、AD治療剤の共同開発・共同販売に関する提携を2014年から行っています。レカネマブについて、エーザイは、開発および薬事申請をグローバルに主導し、エーザイの最終意思決定権のもとで、エーザイとバイオジェンが共同商業化・共同販促を行います。
3.エーザイとバイオアークティックによるAD領域の提携について
2005年以来、エーザイとバイオアークティックはAD治療薬の開発と商業化に関して長期的な協力関係を築いてきました。エーザイは、レカネマブについて、2007年12月にバイオアークティックとのライセンス契約により、全世界におけるADを対象とした研究・開発・製造・販売に関する権利を取得しています。2015年5月にレカネマブのバックアップ抗体の開発・商業化契約を締結しました。
4.エーザイ株式会社について
エーザイ株式会社は、患者様と生活者の皆様の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献する「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」を企業理念とし、この理念のもと、人々の「健康憂慮の解消」や「医療較差の是正」という社会善を効率的に実現することをめざしています。グローバルな研究開発・生産・販売拠点ネットワークを持ち、戦略的重要領域と位置づける「神経領域」「がん領域」を中心とするアンメット・メディカル・ニーズの高い疾患をターゲットに革新的な新薬の創出と提供に取り組んでいます。
また、当社は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)のターゲット(3.3)である「顧みられない熱帯病(NTDs)」の制圧に向けた活動に世界のパートナーと連携して積極的に取り組んでいます。
エーザイ株式会社の詳細情報は、https://www.eisai.co.jpをご覧ください。SNSアカウントX、LinkedIn、Facebookでも情報公開しています。
5.バイオジェン・インクについて
1978年に設立されたバイオジェンは、多発性硬化症の広範なポートフォリオを有し、脊髄性筋萎縮症の最初の治療薬を製品化し、アルツハイマー病の病理に作用する二つの治療薬を共同開発するなど、数多くの革新的なイノベーションを生み出したグローバル・バイオテクノロジー企業です。バイオジェンは神経、神経精神、特定の免疫、希少疾患といった領域において画期的な治療となりうるパイプラインを進展させ、サイエンスを通じて人々に貢献するという理念を厳格に追求し、人々がより健康的に、持続可能で平等に生きていける世界となるよう取り組んでいます。
バイオジェンに関する情報については、https://www.biogen.com/ およびSNS媒体X, LinkedIn, Facebook, YouTubeをご覧ください。
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