エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫、以下 エーザイ)とバイオジェン・インク (Nasdaq: BIIB、本社:米国マサチューセッツ州ケンブリッジ、CEO:クリストファー A. ヴィ―バッハ―、以下 バイオジェン)は、このたび、抗Aβプロトフィブリル*抗体 レカネマブ(一般名、米国ブランド名:「LEQEMBITM」)の臨床第Ⅲ相Clarity AD試験における、抗血小板薬および抗凝固薬使用とアミロイド関連画像異常(ARIA)の発現、ARIA-H単独の発現、ならびに介護者負担および健康関連QOL(Quality of Life:生活の質)に関する最新の解析結果を「第17回アルツハイマー・パーキンソン病学会(International Conference on Alzheimer's and Parkinson's Diseases:AD/PD™ 2023)において発表したことをお知らせします。
Clarity AD試験は、早期アルツハイマー病(AD)当事者様1,795人(レカネマブ投与群:10 mg/kg bi-weekly投与:898人、プラセボ投与群:897人)を対象とした、プラセボ対照、二重盲検、並行群間比較、無作為化グローバル臨床第Ⅲ相検証試験で、主要評価項目ならびに全ての重要な副次評価項目を統計学的に高度に有意な結果をもって達成しました。Clarity AD試験の結果は、2022年11月に第15回アルツハイマー病臨床試験会議(CTAD)にて発表し、同時に査読学術専門誌the New England Journal of Medicineにも掲載されました。
1. ARIAが発現した被験者における抗血小板薬および抗凝固薬の使用を評価した解析結果
Clarity AD試験では、レカネマブ投与群は、プラセボ投与群よりARIAの発現率が増加しました。本解析は、ARIA(ARIA-E(浮腫/浸出)または-H(脳微小出血、脳表ヘモジデリン沈着、直径1cmを超える脳出血))が発現した被験者における抗血小板薬および抗凝固薬の使用状況の評価を目的として実施されました。
プラセボ投与群においては、抗血小板薬や抗凝固薬を使用した場合は、使用していない場合(8.9%)と比較して、ARIAの発現率がわずかに高くなりました(抗血小板薬:9.7%、抗凝固薬(抗凝固薬のみまたは抗血栓薬との併用):10.8%)。レカネマブ投与群においては、抗血小板薬や抗凝固薬を使用した場合は、使用していない場合(21.8%)より、ARIA発現率が若干低くなりました(抗血小板薬:17.9%、抗凝固薬:13.3%)。
ARIA-Eの発現率は、抗血小板薬や抗凝固薬を使用していない場合はレカネマブ投与群では13.1%、プラセボ投与群では1.5%であり、抗血小板薬を使用した場合はレカネマブ投与群では10.4%、プラセボ投与群は0.84%、抗凝固薬を使用した場合はレカネマブ投与群は4.8%、プラセボ投与群は2.7%でした。レカネマブ投与群で直径1cmを超える脳内出血が観察された症例が報告されており、抗血栓薬または血栓溶解薬の投与には注意が必要です。
Clarity AD試験において、レカネマブ投与群は、抗血小板薬や抗凝固薬の使用によってARIAの発現頻度が高くなることはありませんでした。
2. Clarity AD試験におけるARIA-H単独(ARIA-Eを伴わないARIA-H)発現事象の解析
本解析は、ARIA-H単独(ARIA-Eを伴わないARIA-H)の発現とそのタイミングを解析する目的で実施しました。Clarity AD試験において、ARIA-H(ARIA-Eを伴うARIA-H、およびARIA-H単独)の発現率はレカネマブ投与群17.3%、プラセボ投与群9.0%でしたが、ARIA-H単独の発現率はレカネマブ投与群8.9%、プラセボ投与群7.8%であり、同程度でした。ARIA-Eを伴うARIA-Hの多くは、ARIA-E発現と同時期である治療初期に発現しますが、ARIA-H単独は、レカネマブ投与群、プラセボ投与群ともに、18カ月の治療期間中に分散して発現しました。ApoEε4遺伝子とARIA-H単独の発現の関係性については、プラセボ投与群では非保有者3.8%、ヘテロ接合体保有者7.3%、ホモ接合体保有者18.0%、レカネマブ投与群では非保有者8.3%、ヘテロ接合体保有者8.4%、ホモ接合体保有者12.1%となりましたが、ApoEε4ステータスはARIA-Hの発現時期には影響しませんでした。
Clarity ADにおいて、レカネマブ投与群のARIA-H単独の発現パターンは、プラセボ投与群と同様でした。
3. Clarity AD試験データを用いた、健康関連QOL(Health Related Quality of Life)に関する解析結果
本解析は、Clarity AD試験のデータを使用し、事前に設定された健康関連QOL(HRQoL)に関する探索的解析結果を得ることを目的として実施されました。被験者のHRQoLとして、ベースライン時と投与開始後6カ月ごとに、European Quality of Life-5 Dimensions(EQ-5D-5L**)とQuality of Life in AD(QOL-AD***)の指標により測定しました。QOL-ADは介護者による評価も実施されました。さらに、認知症による介護者への負担を評価するために、6カ月ごとに介護者に対してZarit Burden Interview****を実施しました。レカネマブ投与18カ月時点での被験者のEQ-5D-5LとQOL-ADのベースラインからの調整後平均変化量は、プラセボ投与群と比較してそれぞれ49%、56%の悪化抑制を示しました。また、介護者のZarit Burden InterviewとQOL-ADは、レカネマブ投与18カ月時点でそれぞれ38%、23%の悪化抑制を示しました。これらの評価結果はApoEε4遺伝子型によらず一貫していました。本健康関連QOLの結果から、レカネマブ治療が被験者と介護者に有意義なベネフィットをもたらすことが示されました。
レカネマブについて、エーザイは、開発および薬事申請をグローバルに主導し、エーザイの最終意思決定権のもとで、エーザイとバイオジェンが共同商業化・共同販促を行います。
* | プロトフィブリルは、75-5000Kdの可溶性Aβ凝集体です1。 |
** | European Quality of Life-5 Dimensions(EQ-5D-5L)は、患者の報告によるQOLの評価指標として用いられ、5つのドメイン(移動の程度、身の回りの管理、普段の活動、痛み/不快感および不安/ふさぎ込み)から構成されています。 |
*** | Quality of Life in AD(QOL-AD)は、面接調査による認知症疾患に特化した QOL指標です。 |
**** | Zarit Burden Interviewは介護者の負担感測定のために開発された指標です。 |
以上
- Söderberg, L., Johannesson, M., Nygren, P. et al. Lecanemab, Aducanumab, and Gantenerumab — Binding Profiles to Different Forms of Amyloid-Beta Might Explain Efficacy and Side Effects in Clinical Trials for Alzheimer’s Disease. Neurotherapeutics (2022).https://doi.org/10.1007/s13311-022-01308-6.Accessed March 23, 2023
参考資料
1. レカネマブについて
レカネマブ(一般名、米国ブランド名:「LEQEMBI™」)は、BioArctic AB(本社:スウェーデン、以下 バイオアークティック)とエーザイの共同研究から得られた、アミロイドベータ(Aβ)の可溶性(プロトフィブリル)および不溶性凝集体に対するヒト化IgG1モノクローナル抗体です。米国において、「LEQEMBI」は、2023年1月6日に米国食品医薬品局(FDA)より迅速承認を取得しました。「LEQEMBI」の適応症はアルツハイマー病(AD)の治療です。「LEQEMBI」による治療は、臨床試験と同様、ADによる軽度認知障害または軽度認知症の当事者様において開始する必要があります。これらの病期よりも早期または後期段階での治療開始に関する安全性と有効性のデータはありません。本適応症は、「LEQEMBI」で治療された当事者様で観察されたAβプラークの減少に基づき、迅速承認の下で承認されています。本迅速承認の要件として、検証試験による臨床的有用性の確認が必要となります。
米国における処方情報はこちらから入手できます。
Clarity AD試験は、主要評価項目ならびに全ての重要な副次評価項目を統計学的に高度に有意な結果をもって達成しました。米国において、2023年1月6日に臨床第III相Clarity AD検証試験のデータに基づくフル承認への変更に向けた生物製剤承認一部変更申請(supplemental Biologics License Application:sBLA)をFDAに提出し、2023年3月3日に受理されました。本申請は優先審査に指定され、PDUFA(Prescription Drugs User Fee Act)アクションデート(審査終了目標日)は2023年7月6日に設定されました。本申請について、FDAは現時点で諮問委員会を予定していますが、日程については公表していません。日本において、エーザイは、2023年1月16日に、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に製造販売承認申請を行い、1月26日に厚生労働省より優先審査に指定されました。本申請においては、審査期間の短縮をめざし医薬品事前評価相談制度を活用しています。欧州においても、2023年1月9日に欧州医薬品庁(EMA)に販売承認申請(MAA)を提出し、1月26日に受理されました。中国においては、2022年12月に国家薬品監督管理局(NMPA)にBLAのデータ提出を開始し、2023年2月27日に優先審査に指定されました。
レカネマブの皮下注射によるバイオアベイラビリティ試験は終了し、Clarity AD試験OLEにおいて皮下投与の評価が進行中です。
2020年7月から、臨床症状は正常で、ADのより早期ステージにあたる脳内Aβ蓄積が境界域レベルおよび陽性レベルのプレクリニカルADを対象とした臨床第Ⅲ相試験(AHEAD 3-45試験)を米国のADおよび関連する認知症の学術的臨床試験のための基盤を提供するAlzheimer's Clinical Trials Consortium(ACTC)とのパブリック・プライベート・パートナーシップ(PPP)で行っています。ACTCは、National Institutes of Health、National Institute on Agingによる資金提供を受けています。
また、2022年1月から、セントルイス・ワシントン大学医学部(米国ミズーリ州セントルイス)が主導する優性遺伝アルツハイマーネットワーク試験ユニット(Dominantly Inherited Alzheimer Network Trials Unit、以下 DIAN-TU)が実施する優性遺伝アルツハイマー病(DIAD)に対する臨床試験(Tau NexGen試験)が進行中です。
2. エーザイとバイオジェンによるAD領域の提携について
エーザイとバイオジェンは、AD治療剤の共同開発・共同販売に関する提携を2014年から行っています。レカネマブについて、エーザイは、開発および薬事申請をグローバルに主導し、エーザイの最終意思決定権のもとで、エーザイとバイオジェンが共同商業化・共同販促を行います。
3. エーザイとバイオアークティックによるAD領域の提携について
2005年以来、エーザイとバイオアークティックはAD治療薬の開発と商業化に関して長期的な協力関係を築いてきました。エーザイは、レカネマブについて、2007年12月にバイオアークティックとのライセンス契約により、全世界におけるADを対象とした研究・開発・製造・販売に関する権利を取得しています。2015年5月にレカネマブのバックアップ抗体の開発・商業化契約を締結しました。
4. エーザイ株式会社について
エーザイ株式会社は、患者様と生活者の皆様の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献する「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」を企業理念とし、この理念のもと、人々の「健康憂慮の解消」や「医療較差の是正」という社会善を効率的に実現することをめざしています。グローバルな研究開発・生産・販売拠点ネットワークを持ち、戦略的重要領域と位置づける「神経領域」「がん領域」を中心とするアンメット・メディカル・ニーズの高い疾患領域において、革新的な新薬の創出と提供に取り組んでいます。
また、当社は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)のターゲット(3.3)である「顧みられない熱帯病(NTDs)」の制圧に向けた活動に世界のパートナーと連携して積極的に取り組んでいます。
エーザイ株式会社の詳細情報は、https://www.eisai.co.jp をご覧ください。Twitterアカウント@Eisai_SDGsでも情報公開しています。
5. バイオジェン・インクについて
1978年に設立されたバイオジェンは、多発性硬化症の広範なポートフォリオを有し、脊髄性筋萎縮症の最初の治療薬を製品化し、アルツハイマー病の病理に作用する二つの治療薬を共同開発するなど、数多くの革新的なイノベーションを生み出したグローバル・バイオテクノロジー企業です。バイオジェンは神経、神経精神、特定の免疫、希少疾患といった領域において画期的な治療となりうるパイプラインを進展させ、サイエンスを通じて人々に貢献するという理念を厳格に追求し、人々がより健康的に、持続可能で平等に生きていける世界となるよう取り組んでいます。
バイオジェンに関する情報については、https://www.biogen.com/ およびSNS媒体Twitter, LinkedIn, Facebook, YouTubeをご覧ください。