本資料は、米バイオジェン社が 2023年1月10日(現地時間)に発表したプレスリリースの日本語訳として発表させていただくものです。内容につきましては原本である英文が優先します。

 

抗アミロイドβプロトフィブリル抗体「レカネマブ」について、欧州において早期アルツハイマー病に係る適応で販売承認申請を提出

    エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫、以下 エーザイ)とバイオジェン・インク(Nasdaq:BIIB、本社:米国マサチューセッツ州ケンブリッジ、CEO: クリストファー A. ヴィ―バッハ―、以下 バイオジェン)は、このたび、エーザイが抗アミロイドβ(Aβ)プロトフィブリル抗体レカネマブ(一般名、米国ブランド名:LEQEMBI™)について、早期アルツハイマー病(アルツハイマー病(AD)による軽度認知障害(MCI)および軽度認知症)に係る適応で欧州医薬品庁(EMA)に販売承認申請(MAA)を提出したことをお知らせします。本申請は、レカネマブ投与による早期ADの臨床症状の悪化抑制を実証した臨床第Ⅲ相Clarity AD試験、臨床第Ⅱb相試験(201試験)などに基づくものであり、今後EMAにより承認審査に向けた申請受理の可否に関するバリデーションが行われます。

    Clarity AD試験では、主要評価項目(CDR-SB1:Clinical Dementia Rating Sum of Boxes)ならびに全ての重要な副次評価項目を統計学的に高度に有意な結果をもって達成しました。安全性評価として、レカネマブ投与群で最も多かった有害事象(10%以上)は、Infusion reaction、ARIA-H(ARIAによる脳微小出血、脳出血、脳表ヘモジデリン沈着)、ARIA-E(浮腫/浸出)、頭痛および転倒でした。
    Clarity AD試験の結果については、2022年11月に第15回アルツハイマー病臨床試験会議(CTAD)にて発表し、同時に査読学術専門誌the New England Journal of Medicineにも掲載されました。

    米国において、レカネマブについては、2023年1月6日に米国食品医薬品局(FDA)よりAD治療薬として迅速承認を取得し、同日、フル承認への変更に向けた生物製剤承認一部変更申請(supplemental Biologics License Application:sBLA)を提出しました。中国においては、2022年12月に中国の国家薬品監督管理局(NMPA)にBLAのデータ提出を開始しました。日本においても、2022年度中に承認申請を行う予定です。

    レカネマブについて、エーザイは、開発および薬事申請をグローバルに主導し、エーザイの最終意思決定権のもとで、エーザイとバイオジェンが共同商業化・共同販促を行います。

以上

参考資料

1.レカネマブについて
       レカネマブ(一般名、米国ブランド名:LEQEMBI™)は、BioArctic AB(本社:スウェーデン、以下 バイオアークティック)とエーザイの共同研究から得られた、アミロイドベータ(Aβ)の可溶性(プロトフィブリル)および不溶性凝集体に対するヒト化IgG1モノクローナル抗体です。米国において、LEQEMBIは、2023年1月6日に米国食品医薬品局(FDA)より迅速承認を取得しました。LEQEMBIの適応症はアルツハイマー病(AD)の治療です。LEQEMBIによる治療は、臨床試験と同様、ADによる軽度認知障害または軽度認知症の当事者様において開始する必要があります。これらの病期よりも早期または後期段階での治療開始に関する安全性と有効性のデータはありません。本適応症は、LEQEMBIで治療された当事者様で観察されたAβプラークの減少に基づき、迅速承認で承認されています。本迅速承認の要件として、検証試験による臨床的有用性の確認が必要となります。

       米国における処方情報はこちらから入手できます。

       レカネマブの皮下注射によるバイオアベイラビリティ試験は終了し、Clarity AD試験OLEにおいて皮下投与の評価が進行中です。
       2020年7月から、臨床症状は正常で、ADのより早期ステージにあたる脳内Aβ蓄積が境界域レベルおよび陽性レベルのプレクリニカルADを対象とした臨床第Ⅲ相試験(AHEAD 3-45試験)を米国のADおよび関連する認知症の学術的臨床試験のための基盤を提供するAlzheimer's Clinical Trials Consortium(ACTC)とのパブリック・プライベート・パートナーシップ(PPP)で行っています。ACTCは、National Institutes of Health、National Institute on Agingによる資金提供を受けています。
       また、2022年1月から、セントルイス・ワシントン大学医学部(米国ミズーリ州セントルイス)が主導する優性遺伝アルツハイマーネットワーク試験ユニット(Dominantly Inherited Alzheimer Network Trials Unit、以下 DIAN-TU)が実施する優性遺伝アルツハイマー病(DIAD)に対する臨床試験(Tau NexGen試験)が進行中です。本試験において、レカネマブは抗Aβ療法による基礎療法として選定されました。

2.レカネマブの臨床第Ⅱ相試験(201試験)と臨床第Ⅲ相Clarity AD試験について
       臨床第Ⅱb相試験(201試験)は、早期AD当事者様856人を対象に、レカネマブまたはプラセボを18カ月投与する二重盲検並行群間比較用量設定試験として実施しました。レカネマブ投与により、脳内アミロイドβ蓄積量を評価するPET SUVRの用量依存的、経時的かつプラセボと比較して有意な減少が認められました。また、投与後18カ月において、ADCOMS2、CDR-SB、ADAS-cog143を指標とした用量依存的な臨床症状の悪化抑制が認められ、10mg/kg bi-weekly投与群における抑制率はそれぞれ29.7%、26.5%、47.2%でした。なお、12カ月投与時における主要評価項目4は達成しませんでした。10mg/kg bi-weekly投与群で発現した主な有害事象(発現率5%以上かつプラセボ群より高頻度)は、Infusion reaction(19.9%)、頭痛(13.7%)、ARIA-E(9.9%)、咳嗽(8.7%)、下痢(8.1%)、浮動性めまい(7.5%)、脳微小出血(5.6%)でした。

       臨床第Ⅲ相Clarity AD試験は、早期AD当事者様1,795人を対象に、レカネマブ10mg/kgまたはプラセボをbi-weeklyで18 カ月投与する二重盲検並行群間比較試験として実施しました。
       本試験において、主要評価項目である投与18カ月時点のCDR-SBスコアのベースラインからの平均変化量について、レカネマブ投与群、プラセボ投与群はそれぞれ1.21、1.66であり、その変化量の差は-0.45([95%信頼区間(CI): -0.67, -0.23];P=0.00005)となり統計学的に高度に有意な結果が認められ、レカネマブ投与群はプラセボ投与群と比較して27%の全般臨床症状の悪化抑制を示しました。CDR-SBスコアの平均変化量の差は、投与6カ月時点(変化量の差:-0.17 [95%CI:-0.29, -0.05];P<0.01)から3カ月毎のすべての評価時点においてプラセボ投与群と比較して統計学的に高度に有意な結果を示し、その絶対値は経時的に拡大を示しました(全評価ポイントでp<0.01)また、重要な副次評価項目であるアミロイドポジトロン断層法(PET)測定(センチロイド法)による脳内アミロイド蓄積、ADAS-Cog14、ADCOMSおよびADCS MCI-ADL5のすべての項目において、レカネマブ投与群はプラセボ投与群と比較して統計学的に高度に有意な結果(P<0.001)が認められました。
       安全性評価として、レカネマブ投与群で最も多かった有害事象(10%以上)は、Infusion reaction(レカネマブ:26.4%、プラセボ:7.4%)、ARIA-H(ARIAによる脳微小出血、脳出血、脳表ヘモジデリン沈着)(レカネマブ:17.3%、プラセボ:9.0%)、ARIA-E(浮腫/浸出)(レカネマブ:12.6%、プラセボ:1.7%)、頭痛(レカネマブ:11.1%、プラセボ:8.1%)および転倒(レカネマブ:10.4%、プラセボ:9.6%)でした。Infusion reactionは大部分が軽度から中等度(グレード1-2:96%)であり、その多くは初回投与時に発現しました(75%)。本試験の18カ月の二重盲検試験期間中における死亡例はレカネマブ投与群で0.7%、プラセボ投与群で0.8%でしたが、レカネマブやアミロイド関連画像異常(ARIA)発現に関連する死亡例はありませんでした。重篤な有害事象の発現率は、レカネマブ投与群で14.0%、プラセボ投与群で11.3%でした。治験薬投与後に発現した有害事象(TEAEs)は、レカネマブ投与群で88.9%、プラセボ投与群で81.9%でした。投薬中止に至ったTEAEsは、レカネマブ投与群で6.9%、プラセボ投与群で2.9%でした。
       レカネマブのARIA発現プロファイルは、臨床第Ⅱ相試験(201試験)結果を踏まえ、総じて想定内でした。ARIA-Eは、画像判定では大部分が軽度から中等度(ARIA-E発現者の91%)であり、無症候(同78%)でした。その多くは治療開始後3カ月以内に発現(同71%)し、検出後4カ月以内に消失(同81%)しました。症候性のARIA-Eの発現率は、レカネマブ投与群で2.8%であり、最も一般的な症状として頭痛、視覚障害、錯乱が報告されました。症候性ARIA-Hの発現率は、レカネマブ投与群で0.7%、プラセボ投与群で0.2%でした。ARIA-Hのみ(ARIA-Eを発現していない被験者でのARIA-H)は、レカネマブ投与群(8.9%)、プラセボ投与群(7.8%)であり、差はありませんでした。

3.エーザイとバイオジェンによるAD領域の提携について
       エーザイとバイオジェンは、AD治療剤の共同開発・共同販売に関する提携を2014年から行っています。レカネマブについて、エーザイは、開発および薬事申請をグローバルに主導し、エーザイの最終意思決定権のもとで、エーザイとバイオジェンが共同商業化・共同販促を行います。

4.エーザイとバイオアークティックによるAD領域の提携について
       2005年以来、エーザイとバイオアークティックはAD治療薬の開発と商業化に関して長期的な協力関係を築いてきました。エーザイは、レカネマブについて、2007年12月にバイオアークティックとのライセンス契約により、全世界におけるADを対象とした研究・開発・製造・販売に関する権利を取得しています。2015年5月にレカネマブのバックアップ抗体の開発・商業化契約を締結しました。

5.エーザイ株式会社について
       エーザイ株式会社は、患者様と生活者の皆様の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献する「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」を企業理念とし、この理念のもと、人々の「健康憂慮の解消」や「医療較差の是正」という社会善を効率的に実現することをめざしています。グローバルな研究開発・生産・販売拠点ネットワークを持ち、戦略的重要領域と位置づける「神経領域」「がん領域」を中心とするアンメット・メディカル・ニーズの高い疾患領域において、革新的な新薬の創出と提供に取り組んでいます。
       また、当社は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)のターゲット(3.3)である「顧みられない熱帯病(NTDs)」の制圧に向けた活動に世界のパートナーと連携して積極的に取り組んでいます。
       エーザイ株式会社の詳細情報は、https://www.eisai.co.jpをご覧ください。Twitterアカウント@Eisai_SDGsでも情報公開しています。

6.バイオジェン・インクについて
       神経科学領域のパイオニアであるバイオジェンは、最先端の医学と科学を通じて、重篤な神経学的疾患、神経変性疾患の革新的な治療法の発見および開発を行い、その成果を世界中の患者さんに提供しています。1978年にチャールズ・ワイスマン、ハインツ・シェイラー、ケネス・マレー、ノーベル賞受賞者であるウォルター・ギルバートとフィリップ・シャープにより設立されたバイオジェンは、世界で歴史のあるバイオテクノロジー企業のひとつです。バイオジェンは多発性硬化症の領域をリードする製品ポートフォリオを持ち、脊髄性筋萎縮症の最初の治療薬を製品化し、アルツハイマー病の病理に作用する最初の治療薬を提供しています。また、生物製剤の高い技術力を活かしてバイオシミラーの製品化を行い、業界内で最も多様な神経科学領域のパイプラインに注力し、進展させており、アンメットニーズが高い疾患領域の患者さんの治療水準に変化をもたらしています。
       バイオジェンに関する情報については、https://www.biogen.com/ およびSNS媒体TwitterLinkedInFacebookYouTubeをご覧ください。

参考文献
  1. CDR-SBは、認知症の幅広いステージの重症度を評価するスケールであり、記憶、見当識、判断力と問題解決、地域社会の活動、家庭および趣味、身の回りの世話の6項目について、当事者様の診察やご家族および介護者様からの情報で評価します。6項目のスコアの合計点がCDR-SBのスコアとなり、早期ステージのADを対象とした治療薬の適切な有効性評価項目としても使用されます。
  2. ADCOMSは早期ADの変化を感度よく検出することを目的とし、ADAS-Cog、MMSE(Mini-Mental State Examination)、CDRの3つの臨床評価尺度を組み合わせたエーザイが開発した評価指標です。
  3. ADAS-Cogは、ADを対象とした臨床治験でグローバルに最も広く用いられている検査方法です。ADAS-Cog14は単語再生、命令、構成行為、物品と手指の呼称、観念行為 、見当識、単語再認、検査教示の記憶、話し言葉の理解、換語、話し言葉の能力、単語の遅延再生、数字の消去、迷路という14項目を評価するもので、MCIを含む早期ADを対象とした試験で用いられています。
  4. 投与12カ月時点においてADCOMSによる臨床症状の抑制がプラセボ投与群に対し25%低下する確率が80%以上とする
  5. ADCS MCI-ADL はMCI当事者様の日常生活動作を評価するスケールであり、最近の日常生活動作における実際の様子を被験者のパートナーへの24項目の質問から評価します。
Biogen-196596