本資料は、米バイオジェン社が 2018年7月26日(日本時間)に発表したプレスリリースを日本語訳として発表させていただくものです。
よって必ずしも日本の状況を反映したものでないことをご了承ください。内容につきましては原本である英文が優先します。

 

BAN2401の早期アルツハイマー病を対象とした臨床第Ⅱ相試験結果の詳細をアルツハイマー病協会国際会議(AAIC2018)にて発表

    エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫、以下 エーザイ)とバイオジェン・インク (Nasdaq: BIIB、本社:米国マサチューセッツ州ケンブリッジ、CEO:ミシェル・ヴォナッソス、以下 バイオジェン)は、このたび、抗アミロイドβ(Aβ)プロトフィブリル抗体BAN2401の早期アルツハイマー病856人を対象とした臨床第Ⅱ相試験(201試験)の詳細結果について、米国イリノイ州シカゴで開催されているアルツハイマー病協会国際会議(Alzheimer's Association International Conference: AAIC2018)における7月25日開催のセッションDT-01「Recent Developments in Therapeutics(治療薬開発の最新動向)」において、口頭発表いたしました。(発表番号DT-01-07)。本発表は、AAIC2018のLate Breaking Abstractに採択されました。

    201試験(ClinicalTrials.gov identifier NCT01767311)は、アミロイドの脳内蓄積が確認されたアルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)および軽度アルツハイマー病(総称して早期アルツハイマー病)患者856人を対象とした、プラセボ対照、二重盲検、並行群間比較、無作為化臨床第Ⅱ相試験です。被験者はプラセボ投与群および実薬投与群として2.5 mg/kgバイウィークリー(2週間に1回)、5 mg/kgマンスリー(月1回)、5 mg/kgバイウィークリー、10 mg/kgマンスリー、10 mg/kgバイウィークリーの5用量5群に割り付けられました。本試験では、中間解析の結果によって、より治療効果が高いと判定された投与群への割付比率を自動的に高めるベイジアン アダプディブ ランダム化デザインが用いられました。

    本試験では、アルツハイマー病の原因とされる病態生理のバイオマーカーとして、アミロイドPETによるベースライン(投与前)から18カ月までの脳内アミロイド蓄積量の変化などを評価し、臨床エンドポイントについては、ADCOMS(Alzheimer’s Disease Composite Score)、ADAS-cog(Alzheimer's Disease Assessment Scale-cognitive subscale)、CDR-SB(Clinical Dementia Rating Sum of Boxes)の評価指標によるベースラインからの18カ月までの変化を評価しました。

    ベイジアン アダプディブ ランダム化デザインによる中間解析では、試験の早期段階において10 mg/kgマンスリーおよび10 mg/kgバイウィークリーの高用量投与2群において治療効果が高いと判定され、両群への割付が多い結果となりました(プラセボ群247人、2.5 mg/kgバイウィークリー群:52人、5 mg/kgマンスリー群:51人、5 mg/kgバイウィークリー群:92人、10 mg/kgマンスリー群:253人、10 mg/kgバイウィークリー群:161人)。本試験においては、2014年7月の米国以外の規制当局からの要請によりAPOE4陽性患者について10 mg/kgバイウィークリー群への割付を制限したため、結果として10 mg/kgマンスリー群への割付が多くなりました。

    アミロイドPET測定による脳内アミロイド蓄積量については、BAN2401は、用量依存的かつすべての投与量群で統計学的に有意な減少を示しました。Centiloid法で標準化されたPET測定値の解析ではBAN2401最高用量投与群(10 mg/kgバイウィークリー)における脳内アミロイド蓄積量の実測値は、ベースラインで平均74.5、18カ月時点で平均5.5でした。統計的調整後(MMRM*)の減少量の平均は70ユニットと統計学的に有意かつ大きな減少を示しました(p < 0.0001)。また、アミロイドPET画像読影診断においてBAN2401は用量依存的にアミロイド陽性から陰性へのコンバージョンを示し、最高用量投与群(10 mg/kg バイウィークリー)の18カ月時点における陰性へのコンバージョンは81%でした(p < 0.0001)。

    最終的な有効性を評価する18カ月時点における臨床エンドポイント解析は、事前に規定された伝統的統計手法によって行われ、その結果、ADCOMSのベースラインからの用量依存的な進行抑制が確認されました。BAN2401 最高用量投与群(10 mg/kgバイウィークリー)では、投与後18カ月時点において、プラセボ群に比較して統計学的に有意な症状の進行抑制を示しました(30%抑制、p = 0.034)。また、投与後6カ月時点から統計学的に有意な進行抑制が示され(p < 0.05)、12カ月時点でも統計学的に有意な進行抑制が認められました(p < 0.05)。BAN2401による用量依存的な進行抑制は、ADAS-cogにおいても確認されました。最高用量投与群(10 mg/kgバイウィークリー)では、投与後18カ月時点においてプラセボ群に比較して有意な症状の進行抑制を示しました(47%抑制、p = 0.017)。CDR-SBにおいても、BAN2401による用量依存的な進行抑制が示され、臨床的に意味のある差として事前に規定した25%を本試験期間を通して上回りました。投与後18カ月時点における最高用量投与群(10 mg/kgバイウィークリー)のプラセボ群に対する症状の進行抑制は26%でした。プラセボ群における症状の悪化速度は、米国でのADNI(Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative)研究結果と同様の傾向でした。
    なお、12カ月時点のADCOMSのベイジアン解析において、BAN2401最高用量投与群(10 mg/kgバイウィークリー)がプラセボ投与群の悪化を抑制する推定確率は98%でした。一方、本試験の12カ月時点の早期成功基準は、ベースラインからの悪化をプラセボと比較して臨床的に意味のある差として25%以上抑制する推定確率が80%以上と規定していましたが、ベイジアン解析によるその推定確率は64%でした。

    また、脳脊髄液中のAβ総量は、BAN2401投与群において用量依存的に増加しました(18カ月時点の最高用量投与群 10 mg/kgバイウィークリー: p < 0.0001)。一方、高用量2群(10 mg/kgマンスリー群または10 mg/kgバイウィークリー群)を統合した解析の結果、脳脊髄液中のタウ総量は、プラセボ群に比較して経時的かつ統計学的に有意な減少を示しました(p < 0.05)。

    BAN2401は、18カ月投与期間中、いずれの投与量群においても許容可能な忍容性を示しました。有害事象の発現率は、プラセボ群で26.5%、BAN2401 10 mg/kgマンスリー群で53.4%、同10 mg/kgバイウィークリー群で47.2%でした。最も頻度高く報告された有害事象は、アミロイド関連画像異常(ARIA)と注射に伴う反応でした。なお、最高用量投与群(10 mg/kgバイウィークリー)におけるARIA-E(浮腫)の発現率は9.9%であり、すべての投与量群において10%以下でした。また、最高用量投与群(10 mg/kgバイウィークリー)においてAPOE4陽性患者のARIA-E発現率は、14.6%でした。MRIにおいてARIA-Eが示されたすべての患者について、プロトコルに従い、試験が中止されました。重篤な有害事象の発現率は、プラセボ群で17.6%、BAN2401 10 mg/kgマンスリー群で12.3%、同10 mg/kgバイウィークリー群で15.5%でした。

*MMRM解析:経時的反復測定データに対する混合効果モデルによる解析

以上

参考資料

1. BAN2401について
       BAN2401は、バイオアークティックとエーザイの共同研究から得られた、アルツハイマー病に対するヒト化モノクローナル抗体です。アルツハイマー病を惹起させる因子の一つと考えられている、神経毒性を有する可溶性のAβ凝集体に選択的に結合して無毒化し、脳内からこれを除去するモノクローナル抗体です。本抗体による治療アプローチは、疾患病理への作用と症状の進行抑制が期待されています。エーザイは、本抗体について、2007年12月にバイオアークティックとのライセンス契約により、全世界におけるアルツハイマー病を対象とした研究・開発・製造・販売に関する権利を獲得しています。また、2014年3月に、エーザイとバイオジェンは、本剤に関する共同開発・共同販促契約を締結し、2017年10月に内容の一部変更契約を締結しています。

2. 201試験について
       本試験は、BAN2401の有効性及び最適投与レジメンをより効率的に見出すため、中間解析の結果によってより可能性の高い投与群への割付比率をアダプティブに変えるなどの試験途中のデザイン変更を自動的に可能とするベイジアン アダプティブ ランダム化デザインを用い、バイオマーカーによるアミロイド陽性を確認したプロドローマルおよび軽度アルツハイマー病(総称して早期アルツハイマー病)に対するBAN2401の安全性、忍容性、有効性を評価するプラセボ対照、二重盲検、並行群間比較臨床第Ⅱ相試験です。本試験では、プラセボと実薬5投与量群を用い、16回の早期成功を判断する中間解析、12カ月時点でのADCOMSに基づく解析、18カ月時点での包括的な最終解析によって、BAN2401の有効性に関する探索的評価と用量反応性の検討を行いました。実薬群では、2.5 mg/kgバイウィークリー(2週間に1回)(52人)、5 mg/kgマンスリー(月1回)(51人)、5 mg/kgバイウィークリー(92人)、10 mg/kgマンスリー(253人)、10 mg/kgバイウィークリー(161人)の5用量5群に割り付けられました。バイオマーカー評価として、アミロイドPETによる脳内Aβ蓄積、脳脊髄液中のAβ総量などを測定し、有効性評価(臨床)として、ADCOMS、CDR-SB、ADAS-cogを測定しました。

3. ADCOMSについて
       ADCOMS (Alzheimer’s Disease Composite Score)は、早期アルツハイマー病の臨床症状の変化を感度よく検出することを目的とし、アルツハイマー病の臨床評価に汎用される3つの評価スケールであるADAS-cog (Alzheimer's Disease Assessment Scale-cognitive subscale)、CDR-SB(Clinical Dementia Rating Sum of Boxes)、MMSE(Mini-Mental State Examination)の評価要素を組み合わせエーザイが開発した評価指標です。本201試験では、FDA等の規制当局との協議の上で臨床症状の評価項目としてADCOMSを使用しています。

4. アミロイドPETイメージングについて
       アミロイドPET(Positron Emission Tomography)イメージングは、陽電子で標識されたアミロイドプラークに特異的に結合するアミロイドPETトレーサーをごく微量生体内に投与し、脳内のアミロイドプラークを可視化し、アミロイドプラークの脳内分布ならびにその蓄積度を定量評価することができる診断法です。早期を含むアルツハイマー病における病理変化・診断に活用されており、アミロイド仮説を標的とする疾患修飾薬の臨床効果を評価することができます。
       アミロイドの集積度を定量的に比較評価するためには、標準取込値比(Standard Uptake Value Ratio:SUVr)を用います。SUVrとはPETトレーサーの集積度が低くかつ変化の少ない脳の領域(参照領域)を基準として、脳の各部位(関心領域)における集積度の強さを比として算出するものです。しかし、このSUVr値は、用いるPETトレーサーの種類や測定条件によって特異的な値を示すため、異なるPETトレーサーで測定されたAβ蓄積量のデータを、統合して解析するために、Centiloid法と呼ばれる標準化されたスケールが開発されています。Centiloid法では、健康成人での蓄積レベルを0、典型的なアルツハイマー病での蓄積レベルを100としスケール化しています(2015年Klunkらの発表による)。本試験では、このCentiloid法を用いてSUVr測定値を標準化し、その減少量の評価を行いました。

5. エーザイとバイオジェンによるアルツハイマー病領域の提携内容について
       エーザイとバイオジェンは、アルツハイマー病治療剤の共同開発・共同販売に関して、幅広い提携を行っています。抗Aβプロトフィブリル抗体BAN2401とBACE阻害剤elenbecestatについてはエーザイ主導のもとで、抗Aβ抗体aducanumabについてはバイオジェン主導のもとで、グローバルでの承認取得に向けた開発を進め、承認取得後は米国、欧州(EU)、日本といった主要市場で共同販促を行います。
       BAN2401とelenbecestatについて、両社は研究開発費等の費用を折半し、共同販促に基づく売上高はエーザイに計上され、利益は両社で等しく分配します。

6. エーザイ株式会社について
       エーザイ株式会社は、本社を日本に置く研究開発型グローバル製薬企業です。患者様とそのご家族の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献する「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」を企業理念としています。グローバルな研究開発・生産・販売拠点ネットワークを持ち、戦略的重要領域と位置づける「神経領域」「がん」を中心とするアンメット・メディカル・ニーズの高い疾患領域において、世界で約1万人の社員が革新的な新薬の創出と提供に取り組んでいます。
       エーザイは、アルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症治療剤「アリセプト®」の開発・販売から得た経験を活かし、医療従事者や介護関係者、行政などの協力を得て認知症と共生する「まちづくり」に取り組み、世界で推計1万回以上の疾患啓発イベントを開催してきました。認知症領域のパイオニアとして、次世代治療剤の開発にとどまらず、診断方法の開発やソリューションの提供にも取り組んでいます。エーザイ株式会社の詳細情報は、www.eisai.co.jpをご覧ください。

7. バイオジェン・インク(Biogen Inc.)について
       神経科学領域のパイオニアであるバイオジェンは、最先端の医学と科学を通じて、重篤な神経学的疾患、神経変性疾患の革新的な治療法の発見および開発を行い、世界中の患者さんに提供しています。1978年にチャールズ・ワイスマン、ノーベル賞受賞者であるウォルター・ギルバートとフィリップ・シャープにより設立された バイオジェンは、世界で歴史のあるバイオテクノロジー企業であり、多発性硬化症の領域をリードする製品ポートフォリオを持ち、脊髄性筋萎縮症の唯一の治療薬を製品化しました。また、アルツハイマー病、神経免疫疾患、運動性疾患、神経筋障害、痛み、眼科、神経精神医学といった神経領域の研究においても最先端の活動を展開しています。生物製剤の高い技術力を活かし、バイオジェンは高品質のバイオシミラーの製造と製品化にも注力しています。バイオジェン・インクに関する情報については、www.biogen.com およびSNS媒体TwitterLinkedInFacebookYouTubeをご覧ください。

8. バイオアークティック(BioArctic AB.)について
       バイオアークティックは、スウェーデンに拠点を置き、アルツハイマー病、パーキンソン病のような神経変性疾患の疾患修飾治療や信頼性の高いバイオマーカー・診断薬の開発にフォーカスしたバイオファーマです。また、同社は、完全脊髄損傷に対する治療法の開発も行っています。このようにバイオアークティックは、高いアンメット・メディカル・ニーズがある領域での革新的な治療の創出にフォーカスしています。バイオアークティックは、スウェーデンのウプサラ大学による革新的な研究に基づき、2003年に設立されました。大学との共同研究を重視するとともに、アルツハイマー病領域ではエーザイ、パーキンソン病領域ではAbbVieとの戦略的グローバルパートナーシップを形成しています。プロジェクトのポートフォリオは、グローバル企業とのパートナーシップにより資金提供されたプロジェクトとライセンスを企図した社内プロジェクトの組み合わせです。バイオアークティックは、Nasdaq Stockholm Mid Cap(STO:BIOA B)に上場しています。バイオアークティックに関する詳細については、www.bioarctic.comをご覧ください。

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