- 掲載されたデータは、臨床第III相VALOR SOD1-ALS試験とそのオープンラベル延長試験(OLE)のもので、これらの長期データの重要性が明らかに
- 12カ月データによると、より早期のトフェルセン治療開始が主要な指標全般でSOD1-ALSと診断された被験者の機能および筋力低下の抑制を示した
- 今回の結果はSOD1-ALSの病態と、ALSを対象とした臨床試験デザインに関する重要な教訓を提供
米マサチューセッツ州ケンブリッジ、2022年9月21日(米国時間)– バイオジェン(NASDAQ略称BIIB)は、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)が、スーパーオキサイドジスムターゼ1(SOD1)筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療薬候補トフェルセンを評価した臨床第III相VALOR試験、およびVALOR試験とオープンラベル延長試験(OLE)の統合解析の詳細な結果を掲載したことを発表しました。現在のところ、SOD1-ALSに対する治療薬はありません。
VALOR試験の治験責任医師でワシントン大学医学部セントルイス校ALSセンター共同センター長のティモシー・ミラー, M.D., Ph.D. (Timothy Miller, M.D., Ph.D.)は次のように述べています。「これらのデータには3つの重要なポイントがあると思います。第一に、トフェルセンがSOD1タンパクの減少を導いたことは明らかで、これは予期したとおりでした。第二に、ニューロフィラメントのレベルがかなり低下したことで、これは潜在的な疾患プロセスを抑制する可能性を示すものと私は解釈します。そして第三に、オープンラベル延長試験の長期データを見たときに意義のある臨床上のベネフィットがあるということです。私たちは、この重要な研究に参加してくださった被験者、ご家族、そして治験施設の方々の献身的なご協力に感謝しています」。
統合解析のデータは先に欧州ALS治療学会(ENCALS)年次集会で発表され、先日米国食品医薬品局により優先審査が認められたバイオジェンによるトフェルセンの新薬承認申請にも含まれました。本申請について、処方薬ユーザーフィー法による審査完了日が2023年1月25日とされました。
VALOR試験の共同治験責任医師でノースイーストALSコンソーシアムの共同創設者であり、マサチューセッツ総合病院のヒーリー & AMG ALSセンター長兼神経内科長で、ハーバード大学医学部の神経学科ジュリエンヌ・ドーン教室教授であるメリット・セコヴィッチ医師(Merit Cudkowicz, M.D.)は次のように述べています。「ALSコミュニティは数十年にわたり新薬を活発に追求してきました。このようなデータがNEJMに掲載されたことは私たちに活力と希望を与えてくれます。今回のデータは私たちが長い間トフェルセンに対して感じていたこと、つまりSOD1-ALSの患者さんに対して臨床的な違いをもたらす可能性があることを示しています。臨床データに加えて、軸索損傷と神経変性のマーカーであるニューロフィラメントの減少が示されたことは、トフェルセンの可能性を際立たせるものです」。
VALOR試験およびOLE試験について
VALOR試験は、6カ月の第III相無作為化プラセボ対照二重盲検試験で、SOD1遺伝子変異に関連するALSの成人患者さんを対象にトフェルセン 100 mgの効果を評価しました。合計で108名の被験者がVALOR試験で無作為に割り付けられました(トフェルセン 100 mg群 n=72、プラセボ群 n=36)。うち95名の被験者は継続中のOLE試験に組み入れられました。解析時点において、全ての被験者が少なくとも12カ月のフォローアップ治療の機会を得て、トフェルセンの平均治療期間は約20カ月(1カ月から34カ月の間に分布))でした。
VALOR試験の主要評価項目は、ALS機能評価スケール改訂版(ALSFRS-R)のベースラインから28週までの変化量でした。副次的評価項目は、総脳脊髄液中のSOD1タンパク濃度、血漿ニューロフィラメント軽鎖(NfL)、肺活量(SVC)、16カ所の筋力(ハンドヘルドダイナモメーターで測定)、の変化量でした。
2021年10月に報告されたように、VALOR試験は主要評価項目を達成しませんでした。しかし、複数の副次的評価項目および探索的評価項目で疾患の進行抑制の兆候がみられました。疾患進行度のマーカーとなるベースラインのニューロフィラメントレベルにより調整したVALOR試験とOLE試験12カ月の統合データの臨床解析では、SOD1タンパク(標的への結合を示すマーカー)とニューロフィラメント(神経変性のマーカー)の一貫した減少が示され、より早期のトフェルセンの治療開始が臨床的機能、呼吸機能、筋力、QOLの低下の抑制を示しました。
12カ月データで、VALOR試験およびOLE試験のトフェルセン投与群の被験者に最も多くみられた有害事象(AEs)は、処置痛、頭痛、四肢痛、転倒、腰痛でした。VALOR試験およびOLE試験の大部分のAEsの重症度は軽症から中等症でした。重篤な神経学的イベント(脊髄炎、化学性または無菌性髄膜炎、神経根炎、頭蓋内圧亢進、乳頭浮腫を含む)は、VALOR試験およびOLE試験でトフェルセン投与群の被験者の6.7%で報告されました。
トフェルセンについて
トフェルセンはSOD1-ALSの治療薬候補として開発中のアンチセンス医薬品です。トフェルセンはSOD1メッセンジャーリボ核酸(mRNA)に結合し、SOD1タンパクの合成を減少させます。継続中のVALOR試験のオープンラベル延長試験に加えて、トフェルセンについては臨床第III相ATLAS試験も進行中で、これはSOD1遺伝子変異を有する発症前の方にトフェルセンを投与することで臨床的症状の発現を遅らせることができるかどうか、そして疾患活動性を測定するバイオマーカーとしてのエビデンスを評価するために設計された試験です。バイオジェンは開発提携およびライセンス契約によりトフェルセンをIonis Pharmaceuticals, Inc. (アイオニス・ファーマシューティカルズ社)から導入しました。
筋委縮性側索硬化症およびSOD1-ALSについて
筋委縮性側索硬化症(ALS)は、随意筋の運動をコントロールする脳と脊髄における運動ニューロンの喪失をもたらす希少かつ進行性で死に至る神経変性疾患です。ALSの患者さんは筋力の低下と萎縮を経験し、徐々に運動、発話、摂食の能力を喪失して、最終的には呼吸もできなくなり自立性を失います。ALS患者さんの平均余命は症状の発現後3年から5年です。1
複数の遺伝子がALSに関与しています。ALSの家族歴がない症例においても、患者さんのALSが遺伝子変異によるものかどうかを遺伝子検査により判定できる場合があります。現在、ALSに対する遺伝子を標的とする治療選択肢は存在しません。SOD1遺伝子の変異は、全世界の推計16万8000人のALS患者さんの約2%を占めます (SOD1-ALS)2。SOD1-ALSの余命は患者さんによって大きく異なり、中には1年未満の患者さんもいらっしゃいます。3
バイオジェンのALSへの継続的なコミットメント
バイオジェンは、あらゆるタイプのALSをより深く理解するために、10年以上にわたってALSの研究推進に尽力しています。当社は2013年に開発後期段階のALS治療薬候補の開発中止という難しい決断を下したにもかかわらず、継続して投資を行い先駆的な研究を続けています。バイオジェンは必要とする患者さんに治療薬候補をお届けする可能性を高めることを目標に、遺伝子に関連するALSや他のタイプのALSを対象とする新薬候補のポートフォリオにこれまでの重要な学びを応用してきました。それらの学びには、特定の患者集団に対して遺伝子的に検証された標的を評価すること、各々の標的に対して最も適切なモダリティを追求すること、高感度の臨床的エンドポイントを採用すること等が含まれます。今日、バイオジェンはトフェルセンやBIIB105を含めALSを対象に開発中の新薬候補のパイプラインを有しています。
バイオジェンについて
神経科学領域のパイオニアであるバイオジェンは、最先端の医学と科学を通じて、重篤な神経学的疾患、神経変性疾患の革新的な治療法の発見および開発を行い、その成果を世界中の患者さんに提供しています。1978年にチャールズ・ワイスマン、ハインツ・シェイラー、ケネス・マレー、ノーベル賞受賞者であるウォルター・ギルバートとフィリップ・シャープにより設立されたバイオジェンは、世界で歴史のあるバイオテクノロジー企業のひとつです。バイオジェンは多発性硬化症の領域をリードする製品ポートフォリオを持ち、脊髄性筋萎縮症の最初の治療薬を製品化し、アルツハイマー病の病理に作用する最初で唯一の治療薬を提供しています。また、生物製剤の高い技術力を活かしてバイオシミラーの製品化を行い、業界内で最も多様な神経科学領域のパイプラインに注力し、進展させており、アンメットニーズが高い疾患領域の患者さんの治療水準に変化をもたらしています。
2020年、バイオジェンは、気候、健康、公平さが深く相互に関連する課題に対して、20年間に2億5000万ドルを投資する大規模な取組みを開始しました。Healthy Climate, Healthy Lives ™は、ビジネス全体で化石燃料の使用をゼロにし、著名な研究機関とのコラボレーションを構築して科学研究を進展させ、人類の健康を改善し、発展途上のコミュニティをサポートすることを目的としています。
バイオジェンに関する情報については、https://www.biogen.com/ およびSNS媒体Twitter, LinkedIn, Facebook, YouTubeをご覧ください。
- Brown RH, Al-Chalabi A. Amyotrophic Lateral Sclerosis. N Engl J Med. 2017 Jul 13.
- Brown CA, Lally C, Kupelian V, Flanders WD. Estimated Prevalence and Incidence of Amyotrophic Lateral Sclerosis and SOD1 and C9orf72 Genetic Variants. Neuroepidemiology. 2021.
- Bali T, et al. Defining SOD1 ALS natural history to guide therapeutic clinical trial design. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2017 Feb