- TMS-007は良好なリスクベネフィットプロファイルを持ち、次世代の血栓溶解薬になる可能性を有する
- 急性期虚血性脳卒中は、脳への血液供給の遮断により発症し、既存の血栓溶解薬は一部には出血リスクの増加により、使用が限定されている
- 前期第II相試験は、症候性頭蓋内出血を発症することなく、血管の再開通と患者さんの機能回復に対するポジティブなインパクトを示した
- バイオジェンは株式会社ティムスに1800万ドルの一時金を支払うとともに、マイルストーンに応じた報酬とロイヤリティを支払う可能性がある
米マサチューセッツ州ケンブリッジ、東京都府中市、2021年5月12日 – バイオジェン(NASDAQ略称 BIIB)と株式会社ティムス(以下TMS)は、バイオジェンがオプション権を行使して、急性期虚血性脳卒中の治療薬候補として開発中のTMS-007をTMSから獲得したことを発表しました。バイオジェンは、前期第II相試験のポジティブなデータに基づいてTMS-007の獲得を決定しました。この試験では、症候性頭蓋内出血(sICH)を発症することなく主要な安全性の目標を達成し、脳内の血管の再開通および被験者の機能回復に対するポジティブなインパクトを示しました。被験者は、脳卒中の症状を発症してから最長で12時間後までの時間帯に投薬を受けました。TMS-007の投薬を受けた被験者の治療を受けるまでの平均時間は9.5時間、プラセボ群では9.3時間でした。TMS-007群の全ての被験者は、既に承認されている血栓溶解薬で認められている投与時間帯を超えて投薬を受けました。
バイオジェンの研究開発部門の責任者であるアルフレッド・サンドロック Jr., M.D., Ph.Dは、次のように述べています。「私たちは今回の結果を心強く思い、前期第II相試験で得られた全体的な安全性、画像所見および臨床転帰の結果に基づいてTMS-007を獲得することを決断しました。過去25年近くにわたり急性期虚血性脳卒中に対する新規の血栓溶解薬は承認されておらず、私たちは開発中のこの新薬が血栓溶解薬による治療を受けられる患者さんの数を拡大し、それにより脳卒中の発症後も機能的自立を維持する可能性を高めると確信しています」。
既に承認されている血栓溶解薬は、遅い投与時間帯のリスクベネフィットプロファイルから、使用できる時間帯に制限があります。アメリカ心臓協会によると、sICHは、脳への血流を阻害する血栓を溶解する作用を持つ既存の血栓溶解治療薬、組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)で、最も懸念されている合併症です1。脳卒中の発症後9時間後までに tPAを投与された患者さんでは、sICHの発症率はこれまでの対照試験で6%程度の割合でした。
無作為化プラセボ対照漸増用量前期第II相試験は、日本で90人の患者さんを登録しました(TMS-007群n=52、プラセボ群 n=38)。本試験の主要評価項目は安全性で、米国立衛生研究所脳卒中スケールで4ポイント以上の悪化を示したsICH の発症率で評価されました。TMS-007群では該当する症例は報告されず、これに対してプラセボ群では悪化した症例の割合は3%でした。
さらにTMS-007群は、副次評価項目である発症後90日での機能的自立において大きな改善を示しました。TMS-007群では、40%の被験者が日常生活における機能自立度の指標であるモディファイド・ランキン・スケールで0または1のスコアを達成し、後遺症や重篤な障害も発症しなかったのに対して、プラセボ群では18%でした(P=< 0.05)。これは、TMS-007群で視認可能な血管閉塞のある一部の被験者で、血管の再開通を示す客観的な血管撮影のエビデンスによって支持されました。磁気共鳴血管撮影で評価された再開通率は、TMS-007群で58.3%(24例中14例)、これに対してプラセボ群では26.7%(15例中4例)でした(オッズ比 4.23; 95%信頼区間 (0.99, 18.07)。
バイオジェンは、TMS-007獲得の一環として、1800万ドルの一時金を支払います。TMSは、TMS-007が特定の開発マイルストーンおよび一定の売上高を達成した場合に、バイオジェンへの譲渡後の開発および製品化にともなう支払いとして、さらに3億3500万ドルを受領する権利があります。TMSはまた、毎年の世界全体での純売上高に対して、1桁台後半から10%台前半の段階的ロイヤリティを受領することができます。バイオジェンはTMS-007獲得後の開発、製造、製品化に関連するコストおよび費用について全責任を担います。
バイオジェンは現在、国際共同試験の計画を含め、TMS-007の臨床開発について次のステップを検討しています。今回の前期第II相試験の最終的なデータ結果は、今後の学会等で発表される予定です。
急性期虚血性脳卒中について
脳卒中は極めて重篤な結果をもたらし、死に至る可能性もある脳血管障害です。脳卒中は全世界で死亡原因の第2位を占め、毎年約1300万例の発症数と550万例の死亡数があり、脳への不可逆的な損傷により脳卒中発症者に永続的な機能障害をもたらします。脳への血液供給の閉塞により発症する急性期虚血性脳卒中は、脳卒中の全症例の約85%を占めており、発症後3~4.5時間以降では承認された薬物治療はありません。より良い有効性および安全性で臨床結果を改善するとともに、脳卒中の発症後に患者さんが血栓溶解薬による治療を受けられる時間帯を延長することのできる新たな治療薬に対して、非常に大きなアンメットメディカルニーズがあります。
TMS-007について
TMS-007は低分子のプラスミノゲン活性化因子で、血栓を破壊する作用とともに血栓部位の局所的炎症を阻害する可能性を持ち、新たな作用機序を有すると考えられます。このユニークな組み合わせにより、TMS-007は次世代の血栓溶解薬として、急性期虚血性脳卒中の患者さんに既存の血栓溶解薬と比較してより長い時間帯での治療を可能にすることが期待されます。
前期第II相試験について
TMS-007は、多施設単回投与二重盲検無作為化プラセボ対照漸増用量試験で、TMS-007群の3つのグループ(体重1 kgあたり1 mg, 3 mg, 6 mg)とプラセボ群(TMS-007群が52例、プラセボ群が38例)で評価されました。株式会社ティムスによって日本で実施された本試験は、急性期虚血性脳卒中の発症後12時間以内で、組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)による治療または血栓除去術を受けることのできない患者さんを対象にしました。主要評価項目は安全性で、副次評価項目は、血管の再開通および脳卒中発症後90日の臨床転帰の評価等でした。
株式会社ティムスについて
株式会社ティムスは東京都府中市に拠点を置き、臨床段階の開発を行う非上場のバイオテクノロジー企業です。同社は、東京農工大学の教授でTMSのチーフサイエンティストである蓮見惠司博士が率いる科学者のチームが特定した、血栓線溶系の調節に関わる新規の発見に基づく治療薬を開発するために、2005年に設立されました。
バイオジェンについて
神経科学領域のパイオニアであるバイオジェンは、最先端の医学と科学を通じて、重篤な神経学的疾患、神経変性疾患の革新的な治療法の発見および開発を行い、その成果を世界中の患者さんに提供しています。1978年にチャールズ・ワイスマン、ハインツ・シェイラー、ケネス・マレー、ノーベル賞受賞者であるウォルター・ギルバートとフィリップ・シャープにより設立されたバイオジェンは、世界で歴史のあるバイオテクノロジー企業であり、多発性硬化症の領域をリードする製品ポートフォリオを持ち、脊髄性筋萎縮症の最初の治療薬を製品化いたしました。また、多発性硬化症および神経免疫疾患、アルツハイマー病および認知症、神経筋障害、運動障害、眼疾患、神経精神疾患、免疫疾患、急性神経疾患および疼痛といった神経領域の研究においても最先端の活動を展開しています。
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