エーザイ株式会社(本社:東京都、代表執行役CEO:内藤晴夫、以下 エーザイ)とバイオジェン・インク (Nasdaq: BIIB、本社:米国マサチューセッツ州ケンブリッジ、CEO:ミシェル・ヴォナッソス、以下 バイオジェン)は、このたび、現在開発中の経口βサイト切断酵素(BACE)阻害剤elenbecestat(開発コードE2609)の臨床第Ⅱ相試験(202試験)の詳細結果について、2018年7月22日から26日まで米国イリノイ州シカゴで開催されているアルツハイマー病協会国際会議(Alzheimer's Association International Conference: AAIC2018)において、発表いたしました(ポスター番号P4-389)。本ポスター発表は、AAIC2018 のLate Breaking Abstractに採択されました。
米国で実施された202試験(ClinicalTrials.gov identifier NCT02322021)は、アミロイドPETでアミロイドの脳内蓄積が確認されている、アルツハイマー病(AD)に伴う軽度認知障害および軽度から中等度のAD患者を対象とした、18カ月間投与の多施設共同、二重盲検、プラセボ対照、並行群間比較、無作為化臨床第Ⅱ相試験です。患者70人がelenbecestat(5 mg、15 mg、50 mg/日)、プラセボの合計4投与群に割付られました。Elenbecestat 5 mgおよび15 mg投与群の半数以上の患者は試験期間中に50 mg投与群に移行しました。それら患者における、50 mgの投与期間は3カ月以上です。これら50 mg群に移行した患者と、当初より50 mgに割り付けされた患者を合わせて、全50 mg投与群として解析を行い、その患者数は38人でした。本試験では、主要な安全性評価項目に加え、探索評価項目として、投与18カ月時点におけるアミロイドPETによる脳内アミロイドの蓄積量および臨床症状について評価しました。
本試験の主要評価項目としては、elenbecestatの投与18カ月間を通じての安全性および忍容性を評価しました。有害事象の発現率は、elenbecestat投与群とプラセボ投与群で同様であり、また有害事象については、用量依存性は確認されませんでした。elenbecestat投与群において、頻度が高かった有害事象(上位6つ)は、上気道感染、悪夢、接触性皮膚炎、頭痛、下痢、転倒でした。なお、本試験において、肝毒性に繋がる副作用の報告はありませんでした。
本試験では、投与18カ月時点におけるアミロイドPETによる脳内アミロイドの蓄積について、PETトレーサーとしてflorbetabenを用いて、脳内アミロイド蓄積量をStandard Uptake Value Ratio(SUVr)にて定量評価したところ(28人)、全50mg投与群ではプラセボ投与群に対し、SUVr値を0.104低下し、統計学的に有意な脳内アミロイド蓄積量の減少が認められました(p=0.011)。また、別のPETトレーサーであるflorbetapirを用いた評価においても(7人)、全50 mg投与群ではプラセボ群に対し、統計的に有意な脳内アミロイド蓄積量の減少(SUVr値0.227低下)が認められました(p=0.024)。
臨床症状に対する有効性評価については、CDR-SB(Clinical Dementia Rating Sum of Boxes)スケールを用いました。18カ月時点における、ベースラインからのCDR-SBスコアの変化量について、elenbecestat 全50 mg投与群(29人)でのスコアの悪化は1.1であったのに対し、プラセボ投与群(12人)でのスコアの悪化は1.6 であり、両群間のスコア差は0.5となり、全50mg投与群はプラセボ群の悪化を31%抑制し、臨床的に重要と考えうる悪化の抑制が観察されました。
また、ADNIデータのアミロイドPET SUVr値とCDR-SB変化量の解析から得た情報をもとに、本試験において特定した病勢進行速度がより高いと予測されるPET SUVrのベースライン値1.4-1.9の範囲の患者を対象として部分集団解析を行ったところ、全50mg投与群(10人)はプラセボ群(5人)に対し、18カ月時点におけるCDR-SBスコアの変化を72%抑制しました。本試験における臨床症状の評価に関しては、プラセボに対する統計学的有意差を検討するための検出力はありませんでしたが、elenbecestatが軽度認知障害および軽度から中等度のAD患者の認知機能の悪化を抑制することが示唆されました。
Elenbecestatはエーザイが創製し、2014年3月からエーザイとバイオジェンが共同開発を進めています。両社は、現在、elenbecestatについて早期アルツハイマー病を対象とした2つのグローバル臨床第Ⅲ相試験(MISSION AD1/2)を実施中です。
以上
参考資料
1. Elenbecestat(一般名、開発コード:E2609)について
Elenbecestatは、次世代経口アルツハイマー病(AD)治療剤として現在臨床第3相試験が進行中のエーザイ創製のBACE阻害剤です。BACEはアミロイド前駆体タンパク質のβサイトを切断するAβ産生の律速酵素です。ElenbecestatはBACEを阻害することで、Aβ産生を抑制し、毒性種と考えられる脳内Aβのオリゴマーやプロトフィブリルへの凝集、その後のアミロイドプラーク(老人斑)形成の減少に繋がると考えられています。現在、ADに伴う軽度認知障害から軽度のAD(総称して早期AD)を対象とした2つのグローバル臨床第Ⅲ相試験(MISSION AD1/2)が進行中です。本剤の米国での開発については、重篤な疾患に対する新たな治療法やアンメット・メディカル・ニーズを満たす可能性のある薬剤について、米国食品医薬品局(FDA)が優先的に審査するファストトラック指定を受けています。
2. 202試験(ClinicalTrials.gov identifier NCT02322021)について
202試験は、ADに伴う軽度認知障害および軽度から中等度のAD患者70人を対象とした、elenbecestatの安全性と忍容性を評価する用量設定、プラセボ対照、二重盲検、並行群間比較、無作為化試験です。治験の対象は、National Institute on Aging-Alzheimer’s Association(NIA-AA)の軽度認知障害またはADの主要臨床基準に従い、MMSEが16以上、かつアミロイドPET検査におけるAβの脳内蓄積などが確認された患者です。Elenbecestatの3用量投与(5 mg/日:17人、15 mg/日:19人、50 mg/日:17人)およびプラセボ投与(17人)の合計4投与群が設定されました。なお、elenbecestat 5 mgおよび15 mg投与群の半数以上の患者は投与期間中に50 mg投与群に移行し、50 mgを3カ月以上投与されました。移行グループを含めた全50 mg投与群(38人)の平均投与期間は11カ月でした。
主要評価項目は、18カ月間を通じての安全性および忍容性の評価です。主な探索目的として、18カ月時のベースラインからのアミロイドPETによる脳内Aβ蓄積量の変化(35人)、CDR-SBやADCOMS(41人)など認知機能評価スケールの変化などの評価を行いました。
3. 用語解説
1)SUVr(Standard Uptake Value Ratio)
PETトレーサーの集積度が低くかつ変化の少ない脳の領域(参照領域)を基準として、脳の各部位(関心領域)における集積度の強さを比として算出するものです。このSUVr値を用いることにより、アミロイドの集積度を定量的に比較評価することができます。
2)CDR-SB (Clinical Dementia Rating Sum of Boxes)
認知症の重症度を評価するスケールであるCDRでは、記憶、見当識、判断力と問題解決、社会適応、家族状況及び趣味、介護状況の6項目について、患者の診察や周囲の人からの情報で評価します。6項目のスコアの合計点がCDR-SBのスコアとなり、早期ステージのADを対象とした治療薬の適切な有効性評価項目です。
4. エーザイとバイオジェンによるアルツハイマー病領域の提携内容について
エーザイとバイオジェンは、アルツハイマー病治療剤の共同開発・共同販売に関して、幅広い提携を行っています。BACE阻害剤elenbecestatと抗Aβプロトフィブリル抗体BAN2401についてはエーザイ主導のもとで、抗Aβ抗体aducanumabについてはバイオジェン主導のもとで、グローバルでの承認取得に向けた開発を進め、承認取得後は米国、欧州(EU)、日本といった主要市場で共同販促を行います。
5. エーザイ株式会社について
エーザイ株式会社は、本社を日本に置く研究開発型グローバル製薬企業です。患者様とそのご家族の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献する「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」を企業理念としています。グローバルな研究開発・生産・販売拠点ネットワークを持ち、戦略的重要領域と位置づける「神経領域」「がん」を中心とするアンメット・メディカル・ニーズの高い疾患領域において、世界で約1万人の社員が革新的な新薬の創出と提供に取り組んでいます。
エーザイは、アルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症治療剤「アリセプト®」の開発・販売から得た経験を活かし、医療従事者や介護関係者、行政などの協力を得て認知症と共生する「まちづくり」に取り組み、世界で推計1万回以上の疾患啓発イベントを開催してきました。認知症領域のパイオニアとして、次世代治療剤の開発にとどまらず、診断方法の開発やソリューションの提供にも取り組んでいます。エーザイ株式会社の詳細情報は、www.eisai.co.jpをご覧ください。
6. バイオジェン・インク(Biogen Inc.)について
神経科学領域のパイオニアであるバイオジェンは、最先端の医学と科学を通じて、重篤な神経学的疾患、神経変性疾患の革新的な治療法の発見および開発を行い、世界中の患者さんに提供しています。1978年にチャールズ・ワイスマン、ノーベル賞受賞者であるウォルター・ギルバートとフィリップ・シャープにより設立されたバイオジェンは、世界で歴史のあるバイオテクノロジー企業であり、多発性硬化症の領域をリードする製品ポートフォリオを持ち、脊髄性筋萎縮症の唯一の治療薬を製品化しました。また、アルツハイマー病、神経免疫疾患、運動性疾患、神経筋障害、痛み、眼科、神経精神医学といった神経領域の研究においても最先端の活動を展開しています。生物製剤の高い技術力を活かし、バイオジェンは高品質のバイオシミラーの製造と製品化にも注力しています。バイオジェン・インクに関する情報については、www.biogen.com およびSNS媒体Twitter、LinkedIn、Facebook、YouTubeをご覧ください。